ヒッタイトの王妃はタワナンナと呼ばれます。でもタワナンナは国王の妻というだけでなく最高位の女性神官として祭祀を担い、夫の死後も地位を保つ特別な存在でした。
『天は赤い河のほとり』でもタワナンナは重要な意味を持ちます。この記事では史実のヒッタイトでの王妃との違いや外交での役割や、『天は赤い河のほとり』でナキアが強い力を持つ背景まで詳しく紹介します。
この記事で分かること
- タワナンナという称号の由来と基本的な意味
- 祭祀や外交で果たした具体的な役割
- 一般的な王妃とは異なる終身の地位と継承方法
- 『天は赤い河のほとり』のナキアが力を持つ理由
タワナンナとは?
ヒッタイトでは王家の歴史や伝統が深く結びついていました。その中で、タワナンナとはヒッタイト王家で最も高い地位にある女性が持つ称号のことなんです。
多くの場合は、国王の第一の妃がタワナンナになりました。ところが、国王と結婚した女性全員がこの称号を持てたわけではありません。同じ時期にタワナンナを名乗れる女性は、原則として一人だけという決まりがありました。
タワナンナは、国王の妻として王宮で暮らすだけの存在ではありませんでした。国家の祭祀を担う、最高位の女性神官という重要な役割を持っていたのです。
ヒッタイトでは、国王が男性側の最高位神官として神々に祈りを捧げます。そしてタワナンナは、女性側の最高位神官として祭礼に参加しました。つまり、婚姻上の立場だけでなく、国と神々を結ぶ公的な役目を果たしていたんですね。
タワナンナが果たした具体的な役目とは?
タワナンナの中心となる役目は、神殿や祭礼に関わることでした。ヒッタイトでは国王とタワナンナがそろって神々に供物を捧げる祭礼が行われています。国王とタワナンナが正しく祭祀を行えば神々が国を守り、豊作や戦勝を与えてくれると考えられていたからです。
とくにアリンナの太陽女神など王家と深く結びついた女神の祭祀にタワナンナは関わりました。こうした祭祀を任されるのは王宮の女性の中でも特別な権威を持っていることを意味していたようです。
国王が遠征などで王都ハットゥシャを離れている間はタワナンナが王都に残ることもありました。そして祭祀や王宮の仕事を担ったのです。
国王の代わりに政治を決めたとというわけではありませんが、王家を代表して神殿や宮廷を支える立場にありました。
また、タワナンナは自分の財産や使用人を持つこともありました。本人の出身家や王族とのつながりによっては宮廷内の人事や外交にも影響を与えることができたのです。
タワナンナは個人名だった
タワナンナは王室の最高位の女性の称号として扱われていますが。タワナンナというのはもともとは最初の王妃の名前でした。
ヒッタイト王国の建国者タバルナの妻がタワナンナだったのです。
後にヒッタイト大王が名乗る称号が建国者にちなんで「タバルナ」となり大王妃の称号が建国者の妻「タワナンナ」となったのです。
これはローマのカエサルの名が後にローマ皇帝を意味する言葉になったのに似ていますね。
外交でも活躍したタワナンナ
歴代のタワナンナでも特に有名なのがハットゥシリ3世の妃プドゥヘパです。
プドゥヘパは夫とともに国家の祭礼を行いヒッタイト王家の女性代表としても活動しました。さらにエジプト王家と手紙を交わしたり、属国の支配者とも連絡を取ったりしていたことがわかっています。
夫のハットゥシリ3世が亡くなり、息子のトゥドハリヤ4世が王になった後もタワナンナとして活動を続けました。王家の重要人物として外交や祭祀に関わり続けたのです。
すべてのタワナンナがプドゥヘパと同じように政治や外交に関わったわけではありませんが、タワナンナという地位が名誉だけの称号ではなかったことがよくわかりますね。
「タワナンナ」と「王妃」の違い
ここで気になるのが、「王妃」との違いでしょうか。タワナンナと王妃はまったく別の女性を表す言葉ではありません。王妃の中でも、王家の最高位女性として認められた一人がタワナンナと呼ばれました。
王妃と違うところが、タワナンナの地位が夫の国王の死後も続くということです。
国王が亡くなって新しい国王が即位すると、新王の妻が王妃になります。ところが先代のタワナンナが生きている間は、新王の妻がタワナンナを名乗ることはできませんでした。
そのため王宮には現在の国王の妻と先代の国王の妃だったタワナンナが同時に存在することもあったのです。
この場合、王家の最高位女性として祭祀上の権威を持つのは、先代のタワナンナでした。新王の妻は王妃でも、タワナンナの死を待たなければ、その称号を受け継ぐことはできなかったのですね。
このように、タワナンナは夫の在位中だけではなく、本人が亡くなるまで続く終身の称号でした。
そして先代のタワナンナが亡くなると、称号は新王の妃など次にふさわしい王家の女性へ渡りました。もっと古い時代には、王家の娘が受け継いだ可能性もあります。
王妃とタワナンナの違い
| 項目 | 王妃 | タワナンナ |
|---|---|---|
| 立場 | 現在の国王の妻 | 王家で最高位の女性 |
| 地位の数 | 複数の妃がいることもある | 同時に原則1人 |
| 主な役割 | 国王の妃として王宮にいる | 祭祀を担う最高位の女性神官 |
| 祭祀との関わり | 必ずしも中心ではない | 国王と並んで祭礼に参加する |
| 夫の死後 | 立場が変わる | 本人が亡くなるまで地位が続く |
| 継承 | 新王の即位で新たな王妃が立つ | 先代のタワナンナの死後に継承される |
| 権威の根拠 | 国王の妻であること | 祭祀上の権威と終身の地位 |
| 王宮での影響力 | 立場によって異なる | 財産・使用人・王族とのつながりを持つことがある |
なぜタワナンナは強い影響力を持てたのか?
タワナンナが強い影響力を持てた理由は最高位の女性神官として祭祀を担い、自分の財産や使用人を持ち、王族や神殿とのつながりを保っていたからです。ただ国王の妻だったからという理由だけではないのですね。
夫が亡くなった後も地位を失わないため、新王が即位しても王宮から退く必要がありませんでしたし、今までと同じように活動できました。
新王にとって先代のタワナンナは母や継母にあたります。実の母の場合は影響力は大きいですし、たとえ血のつながりがない場合でも、祭祀を担う最高位女性のため簡単に地位を奪うことはできなかったのです。
そのため、先代のタワナンナと新王、あるいは新王の妻との間で対立が起こることもありました。
先代のタワナンナには以前から仕えている配下や王族とのつながりがあり、一方で新王の妻は自分が次のタワナンナになることを望みます。双方の立場や思いが、宮廷内でぶつかり合うこともあったと考えられます。
『天は赤い河のほとり』のナキアはなぜ力を持っているのか?
人気漫画でアニメにもなった『天は赤い河のほとり』に登場するナキアも、シュッピルリウマ1世の妃でヒッタイト王家のタワナンナという設定ですね。
劇中ではシュッピルリウマ1世の在位中から強い影響力を持っています。でもシュッピルリウマ1世が亡くなった後も、ナキアがタワナンナの地位を失わないのは実際のタワナンナの制度がそうだったからです。
次の皇帝が即位した後も、王家の最高位女性として王宮に残ることができ神殿や祭祀に関わって多くの配下を従えているのも、タワナンナの立場があるからこそです。
皇子のカイルでも、王家の祭祀を担うナキアを自分たちの判断だけで追放することはできません。
ナキアは自分の息子ジュダを皇帝にしようと画策します。ジュダが皇帝になればナキアはタワナンナであり現皇帝の母にもなるため、王宮内での立場はさらに強くなります。
またカイルが皇帝になり、ユーリが第一の妃になった場合はナキアの死後にはユーリが次のタワナンナになる可能性があります。
ナキアにとってユーリは最初は生贄として召喚しましたが。カイルの妃になってしまったのでうかつには手を出せません。ジュダの皇位継承を妨げる可能性があるうえに、自分の地位を次に受け継ぐ存在でもあるわけです。ナキアがユーリを警戒する理由には、このタワナンナの継承問題も関わっていると考えられます。
実際の歴史ではタワナンナが自分の息子を自由に皇帝へ指名する権利はありませんが。それでも祭祀上の権威や財産、宮廷内のつながりを通して皇位継承に影響を与えることはできたと想像できます。
漫画やアニメを見てなんでナキアがあれほど力を持っているのか不思議に思ったかもしれませんが。そうした理由のひとつがヒッタイトに実在したタワナンナという制度がうまく活かされているからなのです。
関連記事


コメント